立原道造の2つの詩
立原道造の詩による歌曲です。
日本語のイントネーションをまもるように、”語るように歌う/歌うように語る”というやり方で作曲しています。
- 雨の言葉
わたしがすこし 冷えてゐるのは
糠雨のなかに たったひとりで
歩きまはって ゐたせいゐだ
わたしの掌は 額は 湿ったまま
いつかしら わたしは 暗くなり
ここにかうして 凭れてゐると
あかりのつくのが 待たれます
そとはまだ 音もない かすかな雨が
人のゐない 川の上に 屋根に
傘の上に 降りつづけ
あれは いつまでも さまよひつづけ
やがて 霧にかはります……
知らなかったし 望みもしなかった
一日のことを わたしに教へながら
静かさのことを 熱い昼間のことを
雨の かすかなつぶやきは かうして
不意に いろいろ かはります
わたしは それを 聞きながら
いつものやうに 眠ります
- 浅き春に寄せて
今は 二月 たつたそれだけ
あたりには もう春がきこえてゐる
だけれども たつたそれだけ
昔むかしの 約束はもうのこらない
今は 二月 たつた一度だけ
夢のなかに ささやいて ひとはゐない
だけれども たつた一度だけ
そのひとは 私のために ほほゑんだ
さう!花は またひらくであらう
さうして鳥は かはらず啼いて
人びとは 春のなかに
笑みかはすであらう
今は 二月 雪の面につづいた
私の みだれた足跡……それだけ
たつたそれだけ――私には……