オペラ『壁』より
安倍公房の同名小説 をオペラ化(台本: 佐藤裕惟)したものからの抜粋です。
- そうだろうとも
そうだろうとも おまえが 見れば
渦の底に 違いあるまいさ
罪人よ 行きたまえ, 世界の果てに
しかし, まあ
ロビンソンクルーソーより寂しかろ
なぜって、そこに無いのは、
人間だけじゃないからね
だが、死よりましだなんて、言いたもうな
ここの主は、死のない死 というやつだ
しかし、それでも 行かなきゃならぬ
胸に 世界の果てを 持つものは、
世界の果てに 行かなきゃならぬ
- この世界から
この世界から 逃げ出したい
ここでは 誰も 意味なんて 必要としない
どこかに たどり着きたいと
思っている 訳でもない
目的のない行為、進歩のない努力
どこにも たどり着けないで
平気な顔をしている
- 壁よ(合唱)
壁よ、
私は お前の 偉大な営みを 誉める
人間を 生むために、人間から 生まれ
人間から 生まれるために、人間を 生み
お前は 自然から 人間を 解き放った
胸のなかの 見渡す限りの 荒野に
壁は 静かに 果てしなく 広がってゆく
私は お前を呼ぶ 人間の ヒポテーゼと