鏡の国
楽譜を逆さにしても曲になる(演奏できる)という、鏡像カノンという"遊び"があります。
時々退屈したときなど、楽譜を逆さにして弾いて遊んだりしますが、
最近Jazzなどで、ネガティブ・ハーモニーという理論として流行っているのを知って、
すこしびっくりしました。鏡像とかの転回は、基本的に遊びで、
理論となる(反転する)根拠などはないと思います。
ただし、遊びとしては面白いので、すこし試してみました。
まずは、ソプラノ課題です。
逆さにして弾けるというだけでは、つまらないものになりがちなので、
そうならないよう、転調を入れたりして工夫しました。
鏡像になる後半には少し無理があります。
課題は、大譜表での鏡像だとわかれば簡単に解けます。
鏡の国のChant donne
楽譜(PDF)
音源(mp3)
つぎは、Beethovenのピアノソナタ1番の一楽章を逆さにしてみました。
ネガティブ・ハーモニーでは、3度音が裏返るように軸の音を決めるようですが、
ピアノの楽譜を逆さまにするということは、
中央のドを軸にして音程を反転するということになります。
これにより、
- 長3和音が短3和音になる。
- Ⅴ7-ⅠがⅣm6-Ⅰになる。
- 属音ペダルが主音ペダルになる
- 属調が並行調になる
- 四六が頻発する
フレーズ個々の反転した和声進行や四六は、まだ許せますが、
長調の第二主題が並行調だったり、展開部の終わりが主音ペダルだったりといった
調構造の間違いは致命的で、これでは音楽が先へ行くほど盛り下がってしまいます。
この盛り下がってしまうのが、鏡像の世界です。
なのでここでは、第二主題を属調で、展開部の終わりを属音ペダルになるように
移調して、つなぎ部分やおかしいと思うところは変更しました。
また、編成をチェロとピアノにしてすこし編曲してあります。
調構造がしっかりすると、元々のBeethovenのテクスチャ変化が生きてきて、
不自然ではありますが、少しはましになったと思います。
Jazzなどで応用する場合も、調構造は原曲に合わせた方がいいでしょう。
そのまま反転しただけでは、弛緩した「いらいらする」ような不健全な音楽ですから。
音楽は、こういった遊びもいろいろあって楽しいです。